日々の雑感

忍びの里、伊賀の地より。オーガニックとは? 「本物」はどこに?

有機農業とテクノロジー/様々な誤解についてなど

AIとロボットを駆使して有機栽培に取り組む会社が設立された、ということで、彼らの取り組みに触発されて、有機農業とテクノロジーについて改めて考える機会になったので、頭の中を整理しながらまとめっぽいものを書いてみた。

【トクイテン】設立についての豊吉さんの記事

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世界的な気候変動や資源の枯渇、生態系の劣化の様子を見ると、化成肥料(天然ガスや鉱物資源から製造)や化学合成農薬の使用を控えたほうが良さそうだし、世界の農業全体がそっちの方向に進んでいるのは間違いない。

で、そういう動きのなかでも、先駆者的な人あるいはラディカルな人が、半端なこと言ってても結局前に進まないからいっそ【全部無し】にしよーぜ、というのが【有機農業】というジャンルだと捉えたらいいんじゃないかと思う。

 

(※その想いや姿勢をブランディングして売ってるのが有機業界によくある商売スタイル。有機JASという制度もそれをサポートする。なお「有機農産物」が健康によい、というのは科学的に間違っているが、そうした消費者の事実誤認を利用して業界が発展してきた面があるのはこの業界の深い闇だと思う。
無論、有機栽培が健康に悪いわけではないし、健康によいものを生産している有機農業者も総体的に多いのは確かだが、これは栽培における個々の努力の結果なのであって「有機農産物」が健康によい、という論理に一般化するのは無理筋。
農薬については詳細な議論が必要になるが、化成肥料が毒だと思っているとすればそれは大きな誤りだ。)

 

ただ現実には、化成肥料や農薬っていうのは栽培においてすごく有効な「制御手段」であって、これがあるからこそ、現在の社会のように、どこに行っても誰もが簡単に食料を手にすることができる環境が実現できている。

そんななか、あえて【全部無し】の有機農業に取り組む場合、手足縛って自然任せみたいな栽培方法になってしまいがち。趣味の栽培ならそれでいいが、有機栽培を職業として選ぶ場合、安定したパフォーマンスを出そうとしても技術面でも経営面でも「無理ゲー」でハードルが高くなりやすいのは必然。結果、世の他の職業と比較して相応の稼ぎを叩き出すことができるのは、ごく一部の環境に恵まれた人や才能のある人だけということになってしまう。。。

そのあたりを考えれば、現実的に社会全体で持続可能な食料生産を考えるなら、「有機農業」を推進するというよりは、環境問題に対応する形の取り組みを全方位でできるところから進めていく、というのが正しいと思う。

 

最近、政府が政策方針として示した「みどりの食料システム戦略」では、2050年には国内の有機農業のシェア25%を掲げているが、これは捉え方によればかなりミスリーディングになりうる。

www.maff.go.jp

 

個人的な考えとしては

 ・社会全体として化成肥料、農薬、遺伝子組み換えなどの技術を環境適応型のもの (堆肥、天然資材など)に変えていった結果として、2050年頃には既存のものに頼らなくて済むようにする。(というか、そのころにはエネルギー資源的に化成肥料とか経済的に無理!ってなってる可能性は高い。)

という話だと思っていて、

 ・現状の手足縛りの有機農業を政策的にプッシュして25%までシェアを増やす

ではダメだろうな、と考えている。

 

(念のため、これは今、日本の食品流通の0.5%のシェアを占めるオーガニックな価値観を持った人たちのコミュニティを否定するものではない。僕自身そこにかなり親近感をもって活動してきた訳だし。でも、「社会全体」を考えたとき、今の有機農業のスタイルや制度設計・流通システムをそのまま拡大するのは無理筋じゃねーか、という話。

くどいけど、SNS全盛のなか、言葉の端をとらえて感情的に受け止める人も多くなったと思われるため、ちゃんと文脈を読んでね、という意味での補足。)

 

と、まぁ、話してきた感じで僕はとらえてきたんだけど・・・「今の有機農業の条件(無農薬、無化学肥料っぽいやり方)をそのまま広げようとしてもダメ」という考え方自体が、現状の思考に縛られているだけ、という可能性もある。

つまり、今回の豊吉さんたちの【トクイテン】の取り組みのように、AIやロボットがもたらすイノベーションが、こういう思考そのものをぶっとばしちゃうかもしれない、ということ。

 

農業なんて所詮、1年に数回しか栽培できないので、知識や経験、ノウハウを溜めるスピードは限られているし、師匠と弟子の間の口伝みたいな形ではそのノウハウをストックしたり伝える術は限られている。それに様々な栽培管理に関わる高度な技を身に着けること自体、身体的な限界もあってなかなか簡単にはいかない。だから、有機農業のようなハイ・コンテクストな技術体系というのがなかなか広まらないという面がある。

 

今回のAI、ロボットを利用するというチャレンジは、上記のような課題にまさにぶっ刺さるテーマなので、僕自身は実はけっこう期待していたりするのだ。職人芸的な知識やノウハウ、スキルをどこまで言語化~共有知化できるか、と考えると、そこはなかなか高い峰がそびえたっているようにも見えるし、実際どうなるかは分からないけれど、「がんばれー」と応援したい気持ちは強い。

 

ちなみに僕もそっち方面、興味はあるのは確かなのだけど、今は基本的には「オーガニックな生態系」としての新しい流通の仕組みづくりに集中しているので、そっち方面とうまく接続させながら、何かできるといいなぁ、と願ったりしている。